1990年代の日本のカホン事情を振り返る|ホセ三浦氏に訊く

カホンという楽器は皆様ご存知ですよね?
現在ではいろいろなジャンルに使われており、有名な奏者の方も数多くいらっしゃいます。テレビでも見かけるようになりました。

しかし、インターネット検索をしても「ペルー発祥の打楽器で、スペインで最初にカホンを導入したのはフラメンコギタリストのパコ・デ・ルシア、それからいろいろなジャンルに発展した」というのは共通認識で書かれてありますが、日本にいつ伝来してきたのかの情報が全くありません。

そこで今回はこの人なら知っているはず!と、私自身もかつてお世話になりましたホセ三浦氏にお話をお伺いしました。

カホンの日本導入期について

ーー現在はいろいろなジャンルでカホンが起用されていますが、日本でも最初にカホンが導入されたのはフラメンコでしょうか?

おそらくそうだと思います。
でも、当時のことは調べようがないので実際のところわかりません。

ーー実は私、三浦先生が日本最初の「奏者」なのではないかと思っていますが、どうでしょう?

ホームページには「先駆け」と書かせていただいていますが、「日本初の奏者」などと言ってしまうと「いや私が最初だ」という人が現れるかもしれないですし・・・。最初だから偉いというわけでもないですし、あえて「先駆け」という表現を使わせていただいています。

ーーホームページの文から推察するとカホンを始めたのは1989年頃ですか?

その頃からお店などでフラメンコの演奏を始めたんですが、初期の頃はカホンを使ったり使わなかったりだったのではっきりと覚えていないです。

フラメンコの伴奏でカホンの前はボンゴで伴奏していたと聞きましたが、ブレリアなどもボンゴで演奏されていたんでしょうか?

結構、ボンゴで伴奏してましたよ。

ボンゴで一度コロンビアーナ1は演奏されているの見たことがありますが、ブレリア2などは想像がつかないのですが・・・

私の先生、ホセ・セラーノ・バスケス氏はボンゴでブレリアなどを素晴らしく演奏していて、初めて聴いた時に感銘を受けました。先生の演奏は、曲調が暗いからボンゴは合わないとかこだわる気持ちにもならないほど上手でした。その先生の演奏を目指して少しでも近づけるようにと取り組みました。

ーーホセ・セラーノ・バスケスさんには4時間ぐらいのレッスンを受けたと以前聞きましたが、そこで習ったのはボンゴだったんですか?

カホンも習いましたが、ほとんどボンゴでした。バスケス先生のレッスンは小島章司さん3の紹介で習うことができました。バスケス先生の日本滞在期間は1~2週間でしたが、毎日4時間どころではなく、レッスンはほぼ徹夜に近い日もありました。

カホンについてはその後スペインに行った時に、現地で探したり紹介してもらったりして単発で何人かのアーティストにも習いました。

ーーカホン導入について当初は喜ばれる反面、批判的な声というのも恐らく、あったのではないですか?

確かにそういう方もいらっしゃったのは事実です。それは日本に限ったことではなく、スペインの愛好家の方でもそうでした。ただ、そのころはもう既にパコ・デ・ルシアがカホンを取り入れ始めて「かっこいいな」とみんなが思い始めた頃だったので、受け入れてくれる人も多かったですね。

あと有名なスペイン人の歌い手とお仕事で一緒になった時に、面と向かって「カホンは好きじゃない」と言われたことがあります。そのときは、もちろん演奏も頑張りましたが、それ以外の部分でも最善の努力をしました。最終的に「知り合えてよかった、楽しかった。」と言ってもらえて、主催者の顔も立ちましたし本当に嬉しかったです。

ーー同じ道を歩く先輩がいない分、誰にも理解されずに葛藤した部分などあったのではないでしょうか?どのように勉強してきたんですか?

たしかに苦労しましたね。若かったし実力が追いついていなかったからかもしれないし、もしかしたらやり方次第で、うまくいったのかもしれないですね。当時はインターネットもないし、すごく少ないビデオや資料の中から編み出すような作業でした。

当時は入手困難だったカホン

ーー今のように「カホン売り場」などなかったと思いますが、最初のカホンはどこで手に入れましたか?

売っていなかったですしね、仕方なく自作しました。

※当時実際に本番で使用されていたというカホン画像を送っていただきました。右は自作のカホンケース

大工仕事などが苦手なので、見た目はなかなかきれいにできなかったです。何個も作って試行錯誤の上これに至りました。この楽器は長い間使い込みました。

スペイン人も自作していたみたいです。そういえば当時、エル・フラメンコ4で演奏していた人に、終演後カホンについていろいろ質問しましたが、やはりそのときのショーで使っていたのも自作だとのことでした。

ーー日本に来てから作ったんでしょうかね?

そう言っていました。彼らが滞在するアパートの近くで調達した木材や廃材を集めて組み立てたそうです。帰国するときに「買わないか?」と言われましたが、丁重にお断りしました。

ーー最初に買ったカホンはどこで買われましたか?

最初に買ったのはスペインに行った時です。マヌエル・サラドさんのレッスンを受けて、その時に「カホン売っている場所あるよ」と連れっていってもらって買ってきました。5千円ぐらいでした。楽器屋さんのオリジナル製品で、すごく素朴な音です。マヌエル・サラドさんは「ソロ・コンパス5でもこれを使った」と仰っていました。

ーー手持ちで持って帰ってきたんですか?

当時は飛行機の手荷物で持ってこれたんです。ちょっと大変でしたけど、日本では買えないと思ったので頑張りました。

ーそのカホンもしかして、南浦和スタジオにありますか?

ちゃんととってあります。

※スペインで初めて初めて購入されたカホン現物(南浦和スタジオ)

ーーところでこのカホン弦なしですよね?

弦なしです。当時は弦を張っている人は誰もいませんでした。むしろ、弦を張らずに奏法で工夫している人が多かったです。エル・フラメンコで叩いていた人も弦を張っていなかったですね。楽器屋さんでも弦を張る技術はなかったですし、そういう工夫をする人はその頃はいなかったですね。

カホンの踊り伴奏でのスタンスについて

ーーフラメンコの踊り伴奏のことですが、もちろん踊りが主役でカホンは脇役ですが、たとえばひたすら陰から支えるとか、あるいはリーダーシップをとるなど、実際はどういうスタンスで関わるのがベストなんでしょうか?

イベントの内容、会場の広さ、群舞かソロか、群舞なら何人なのかによっても違ってきます。陰のように支える可能性が高いけど、場合によってはもうちょっとリーダーシップをとって前に出ることもあるし、踊りを細かく覚えてシンクロしたりとか、リクエストがある場合はそれに従うこともあります。いろんな可能性があっていろいろなアプローチがあるので、ケースバイケースです。芸術なので可能性は無限大ですね。

ーーたとえばタブラオ6など、小さな会場の場合どうですか?

同じ会場だったとしても毎週レギュラーで出演の場合と貸切の場合ではまた違います。レギュラーの場合は、ムードメーカー的に派手めのことをやったりすることもあるし、貸切の場合は主催者の踊りの人が踊りやすくするのが一番で、活躍しすぎると観客の目が踊りに行かなくなってしまうので、そこは注意しなくてはいけないですね。

ーー演奏中に気をつけていることはほかにもありますか?

あまり深く考えすぎてもよくないです。まずは本能でゴールを決めて、積極的に攻め込んでみたり、踊り・ギター・カンテの様子を見ながら微調整して、最終的によい舞台になるよう心がけています。

ーーカホンは「踊りのサポート」と言われていましたが、最近ではより軸をなす立場になってきているように思いますがどうでしょうか?

最近では時代が進んでカホンの特質が理解されてきたというのは事実でしょうね。一般的にはカホンが入ると踊りやすいはずですし、舞台も豪華に見えます。

ただ、あえてカホンを入れないという踊り手もいます。しっかり自分の足音を管理していて、自分の音が聞こえなくなるから入れないんですね。それとフラメンコにはパルマの存在も重要です。これだけは前提として認識しておかなくてはいけないですね。

現在の活動と今後の予定について

ーー現在ご自身のスタジオで、講師を招いてのクラスの企画をいろいろされていますね!

もともと私たちがやっている踊りクラスとカホン・パルマクラスに加えて、講師を招いてやっているクラスはスペイン語クラスとカンテクラスがあります。スペイン語クラスは定着していますね。バイリンガルの先生で食べ物やスペインの文化に触れながら、フラメンコに対しても重要なことを教えてくれるのでとても楽しいクラスです。カンテクラスもどんどん新しい人も入ってきて盛り上がっています。

ーこれから何か予定されていることはありますか?

11/26(土)13:00から、ガルロチでフラメンコスタジオ・マリの発表会があります。今回もカホン・パルマを習いにきている生徒さんも出演します。

ー今後何かやっていきたいことはありますか?

いままでスペイン人と仕事をしてきて、スペイン語を習得していくことが必ず良い結果に結びつくということに気づきました。今後もスペイン語の学習はさらに続けていきたいです。

ーありがとうございました。

(2022.9.2 Zoom)

今回はZoomでお話しをお伺いしました。私自身2007年~2015年まで月1~2回の個人レッスンを受けていましたが、当時は「先輩」と言える方にお話を聞ける機会もなく、先生ご自身からもアピールされることもありませんでした。私自身がイベント出演などの活動をしてきた中で、ギタリストや歌い手、踊りの方からところどころ聞いていた1990年代カホン導入期についてのお話をお伺いしてみました。

現在もスタジオは継続してお借りしており、直接お顔を合わせるのは1~2年に1回程度ですれ違ってご挨拶する程度ですが、久しぶりに会話し、当時から全くブレのない姿にホッと安堵を感じました。

教則DVDも販売されています 。
奥様である古谷真理子さんとのコラボDVD。カホンのパートはカホンの叩き方の基本、タンゴ、ブレリアの叩き方、冒頭で紹介した動画のフルバージョンも見れます。
非常にわかりやすく座り方、手の角度や、手を置く位置などからかなり詳しく説明してくださっています。 今まであまり興味のなかった方でも「あれ?できるかも?」と、ついやってみたくなると思います。

フラメンコ・スタジオマリ
池袋 〒170-0013 東京都豊島区東池袋1丁目47-5 シルバーマンションB1F
南浦和 〒336-0017 埼玉県さいたま市南区南浦和2丁目34-12
URL:https://flamenco-mari.com/

Twitter:https://twitter.com/cajonflamenco

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